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2026

故郷

平素よりお世話になっております。経済学部2年の麻生武志です。

最近、私にしては珍しく1冊の本を読みました。『ヒルビリー・エレジー』という本です。お母さんがお薦めしてくれたので、せっかくならと思い読み始めました。


この本は、現在アメリカの副大統領を務めている、J.D.ヴァンスが、自身の生い立ちや家族、そして自分のルーツであるアパラチアの文化について書いた本です。本を読んでいて特に印象に残ったのは、ヴァンスが歩んできた人生と、故郷との関係でした。ヴァンスは、現在の姿から想像するような、最初から恵まれた環境で育った人物ではありませんでした。彼の育った地域は、貧しい白人労働者が多い地域で、幼少期から家庭環境は非常に不安定でした。母親の薬物依存や交際相手の変化など、安心して生活できるとは言えない時期を経験したそうです。


しかし、そのような環境の中でも、ヴァンスには信頼できる祖父母をはじめとした家族がいました。また、ヴァンスは、家庭に問題があったことにより、家族そのものを嫌いになったわけではなく、むしろ複雑な環境の中でも、自分を支えてくれた家族への強い思いがありました。そして、その家族のルーツがあるアパラチアに住む白人はヒルビリーと呼ばれ、ヒルビリー文化には、「身内への絶対的な忠誠」という強い文化がありました。そのため、ヴァンスにとってアパラチアは単なる故郷ではなく、そこには親戚がいて、家族の歴史があり、自分がどこから来た人間なのかを感じられる場所でした。


しかし、ヴァンスは成長するにつれて、その世界から少しずつ遠ざかっていきます。高校卒業後には海兵隊に入り、その後大学へ進学し、最終的にはイェール・ロースクールへ進みました。ここで、彼が移動した世界の大きさを考えると驚かされます。イェール・ロースクールは、アメリカでも最も名門とされるロースクールの1つです。社会の中心で活躍する人たちにつながる場所であり、そこで学ぶ人々の多くは、幼い頃から質の高い教育を受け、そうした世界に進むことを自然な選択肢として考えてきた人たちです。一方で、ヴァンスが育った環境では、そのような場所は決して身近なものではありませんでした。彼の身近な人たちにとって、イェールは、「いつか行くかもしれない大学」ではなく、別の世界だったと考えられます。だからこそ、彼がイェールに入ったことは、単に学歴が上がったという話ではなく、生まれ育った世界とは全く異なる世界に入ることを意味しました。ヴァンスは新しい環境の中で、自分が知らない常識に出会っていきます。周囲の人たちが自然に知っていることを彼は知らず、どのように振る舞えばいいのか、食事の時のマナーをどうすればいいのかなど、多くの新しいことを知っていきます。そして、ここまで遠い世界に進んだことによって、ヴァンスの故郷の見え方も変わっていきます。


ヴァンスは故郷への強い愛着を持ちながらも、そこへ戻って暮らしたいとは考えてはいません。外の世界を知らなければ、自分が育った場所を客観的に見ることはできません。しかし、一度外に出て、全く違う世界を知ったことで、故郷の良い部分も、問題がある部分も、以前とは違う形で見えるようになったのです。故郷を愛していることと、故郷に戻りたいことは同じではありません。自分を作ってくれた場所を大切に思いながらも、新しい世界を知った人間が、再び以前と同じ場所だけで生きていくことは難しいこともあります。それは故郷を嫌いになったということではなく、選択肢が広がったということだと思います。


私は昔から家族が大好きです。

現在は入寮していますが、実家に帰る時間は自分にとってかなり大切な時間です。家族と話したり、一緒にご飯を食べたり、特別なことをしなくても家にいるだけで安心します。大学に通えていることも、柔道を始められたことも、好きなことに挑戦できていることも、自分一人の力だけでできているとは全く思っていません。これまで家族に支えてもらいながら、今の自分があるのだと思います。


だからこそ、家から通える距離ではありましたが、寮に入ろうと思いました。家が嫌だったわけではありません。むしろ逆で、家が好きだからこそ、このまま家族に頼り続けるだけでは良くないと思いました。家にいれば、困った時には家族がいて、生活の面でも様々なことを助けてもらえます。それはとてもありがたい環境ですが、いつまでもその環境に甘え続けるだけでは、自分自身でできることが増えていかないような気がしました。


ただ、寮に入った理由はそれだけではありません。単純に、柔道部のみんなと一緒に生活するのが楽しそうだと思ったからです。実際に生活してみると、寮には家とは全く違う楽しさがありました。部活が終わってから一緒にご飯を食べたり、リビングでみんなと話したり、同じ部活に所属している仲間だからこそ共有できる時間があります。家では得られない時間があり、今では寮も自分にとって大切な場所の一つになっています。


とはいえ、毎週末のように実家には帰っています。平日は寮で生活し、柔道部の仲間たちと過ごす。そして週末になると、しっかり家に帰って家族と過ごす。「家族に頼りすぎないように寮に入った」と書いておきながら、実際にはかなり美味しいところを取っているような生活です。ただ、今の自分にとっては、それがちょうどいいのだと思います。家族という、自分がこれまで育ってきた大切な場所がある。そして大学に入り、そこに寮という新しい場所と、新しい仲間が加わりました。


新しい環境に進むことは、これまでいた場所を離れることではあっても、その場所を大切に思わなくなることではなく、むしろ新しい世界を知りながら、自分にとって大切な場所が少しずつ増えていくこともあるのだと思います。ヴァンスが、自分のルーツであるアパラチアを大切に思いながらも、そこだけに留まらず、海兵隊や大学、そしてイェールという全く違う世界へ進んだように、人は自分を作ってくれた場所を大切にしながら、その先へ進んでいくことができるのだと思います。


もちろん、自分の状況をヴァンスと比べることはできません。ただ、自分がどこから来たのか、誰に支えられてきたのかを大切にしながら、新しい環境にも飛び込んでいくということには、少し共感できる部分がありました。これから先、さらに違う環境に進み、新しい人たちと出会うこともあると思います。その度に、自分にとって大切な場所や人が増えていき、今のように美味しいとこどりはできなくなるかもしれません。ただ、ヴァンスが故郷で生きるという選択を手放しながらも、自分のルーツを大切にし続けているように、自分もこれまで大切にしてきたものを大切にしながら、その先へ進んでいきたいと思います。



今週の一曲

BUMP OF CHICKEN

「同じドアをくぐれたら」


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